前回は、私が大学生の頃にAmazonを知り、その後ペリカン便に就職した頃の話を書きました。
大学生の頃は、Amazonのサイトを見て、
「欲しいものが何でもある!」
と感動していました。
その数年後、私はそのAmazonやネット通販の商品を配る側になりました。
しかし、その頃の宅配業界はまだ「ネット通販が宅配業界を変える」という未来がはっきり見えていたわけではありません。
むしろ私が働いていた頃は、
- 荷物が少ない
- 給料が安い
- 時間指定で帰れない
- 夏と年末は休めない
という、かなり厳しい時代でした。
ところが、その後状況は一変します。
ネット通販の急拡大によって、宅配業界は一気に物量の時代へ突入していきました。
ペリカン便とゆうパックの統合で、いきなり現場がパンク
私がペリカン便で働いていた頃、大きな転換点がありました。
それが、
ペリカン便とゆうパックの統合です。
2010年7月1日、日本郵便はJPエクスプレスの「ペリカン便」を事業承継し、新しい「ゆうパック」としてスタートしました。
私自身、その頃はすでに現場で働いていました。
しかも、統合された時期が7月。
宅配業界にとっては繁忙期です。
そのため、私の記憶では、
構内が完全にパンク状態。
荷物が大量に押し寄せ、現場は大混乱でした。
そして、これは単なる私個人の印象だけではありません。
日本郵便も統合直後の7月4日、取扱物数の増加に対応するため新設した拠点などで、荷物の処理方法への不慣れなどから、半日から2日程度の送達遅延が発生していると公表しています。
まさに、
「会社が一つになったから、明日から全部うまくいく」
というわけにはいかなかったわけです。
その後、ゆうパックの荷物が減っていった
そして統合後、私の現場ではさらに大きな変化を感じるようになります。
私の記憶では、その後、
Amazonの荷物は佐川へ、
ASKULやZOZOはヤマトへ。
というように、大口通販の荷物が各社へ移っていきました。
その結果、
ゆうパックの荷物が減っていく。
一方で、
佐川やヤマトの荷物が増えていく。
という変化を感じました。
これは、ネット通販が急激に成長していった時代と重なります。
Amazonは2000年に日本でサービスを開始し、その後、物流拠点の整備やお急ぎ便、Amazonプライムなどを展開していきました。
ネット通販の拡大は、そのまま宅配便の物量増加につながっていきます。
実際、ヤマトも2017年に、Eコマースの拡大による宅急便取扱数量の増加と労働需給の逼迫を背景として、大規模なデリバリー事業の構造改革に乗り出しています。
つまり、この頃から宅配業界全体が、
「荷物がない時代」から「荷物が多すぎる時代」
へ変わっていったのです。
そして、私は「過剰サービス」に疑問を持つようになった
ネット通販が急成長すると、宅配会社同士の競争も激しくなりました。
「もっと早く」
「もっと便利に」
「もっと細かく時間指定できるように」
「再配達にも対応する」
「365日届ける」
「できるだけお客様の希望に応える」
こうしたサービスは、利用者からすれば非常に便利です。
私自身も、宅配ドライバーになる前は、こうしたサービスを普通に利用していました。
しかし、現場にいると別の景色が見えてきます。
私は当時から、
「これ、やればやるほどドライバーが不幸になるんじゃないか?」
と思っていました。
そして、
「お客さんも、サービスが無料で便利になりすぎると、それを当たり前だと思ってしまうんじゃないか?」
とも感じていました。
「無料だから、何度でも来てもらえる」という問題
例えば時間指定。
指定された時間に届けに行く。
ところが、
留守。
再配達をする。
また留守。
そして、再配達も無料。
これを繰り返していると、現場のドライバーには大きな負担になります。
国土交通省の調査でも、2018年4月の宅配便再配達率は約15.0%でした。
つまり、当時は宅配便の約6~7個に1個が再配達という計算です。
これは現場からすると、かなり大きな問題です。
ドライバーからすれば、
「一度届けに行って留守だった」
↓
「もう一度行く」
↓
「また留守だった」
ということが起こります。
その間にも、新しい荷物はどんどん入ってきます。
私が感じていた「過剰サービス」の矛盾
私は当時、
「他社より便利なサービスを提供すれば、荷物を自社に集められる」
という考え方自体は理解していました。
企業としては当然の戦略です。
より便利なサービスを提供する。
↓
荷主が自社を選ぶ。
↓
荷物が増える。
↓
売上が増える。
という考え方です。
しかし、現場から見ると、
「その便利さを誰が支えているのか?」
という疑問がありました。
結局、そのサービスを実際に提供するのはドライバーです。
時間指定なら、その時間に拘束される。
再配達なら、もう一度走る。
不在でも、また行く。
荷物が増えても、同じ時間の中で配らなければならない。
サービスが増えるほど、現場の負担も増えていきます。
「ドライバーを弱らせるためなのでは?」とまで勘ぐってしまった
そして私は、当時こんなことまで考えてしまいました。
「これって、本当にお客さんのためだけなのか?」
もっと言えば、
「ドライバーを弱らせる方向に進んでいないか?」
と。
サービスが増える。
↓
仕事量が増える。
↓
時間が足りなくなる。
↓
ミスが増える。
↓
クレームが増える。
↓
ドライバーの評価が下がる。
↓
「もっと効率化しろ」と言われる。
そんな悪循環になっているように感じたのです。
さらに当時は、企業が利益を上げるために人件費を抑えることが重視される風潮がありました。
だから私は、
「ドライバーを疲弊させ、仕事の価値を下げて、最終的に人件費を抑えようとしているのではないか?」
と勘ぐってしまったこともあります。
ただし、これはあくまで当時の私が現場から感じていた疑問です。
企業が実際に「ドライバーを弱らせること」を目的として過剰サービスを導入したと証明する資料があるわけではありません。
むしろ企業側からすれば、競争、顧客ニーズ、EC市場の拡大など、複数の要因があったと考えるほうが自然でしょう。
それでも、
「現場で働いている人間からすると、そう勘ぐりたくなるほど厳しい環境だった」
というのが、当時の私の正直な感覚でした。
そして佐川がAmazonから撤退したという話が入ってきた
そんな宅配業界に、さらに大きな変化が起こります。
しばらくすると、
「佐川がAmazonをやめた」
という話が現場にも入ってきました。
その後、Amazonとヤマトの関係が強まり、ヤマトではAmazonを含むEC荷物の増加が大きな負担になっていきます。
2017年、ヤマトはEコマースの急拡大による物量増加と人手不足を背景に、荷物の総量コントロールやサービス内容の見直しを発表しました。
例えば、
- 20~21時の時間帯指定を廃止
- 12~14時の時間帯指定を廃止
- 当日再配達の受付締切を早める
- 大口荷主に出荷調整を要請
- 宅配ロッカーを拡大
などです。
これは非常に象徴的な出来事でした。
「今までのサービスを、そのまま続けることはできない」
ということを、大手宅配会社自身が認める段階に入ったわけです。
ヤマトが抱えきれなくなった荷物が、ゆうパックにも流れてきた
そして、その後は私たちのところにも大量の荷物が流れてきました。
私の体感では、
「これまで見たことがないほどの荷物が来る」
という状態でした。
普段なら朝の到着が、
40~60個くらい。
ところが、ある時には、
閑散期なのに朝から180個。
自分のエリアだけで、朝からこれだけの荷物が到着する。
これは本当に驚きました。
「閑散期なのに、なんでこんなにあるんだ?」
という感じです。
そして、これはゆうパックだけの問題ではありません。
宅配業界全体で物量が増え、人手不足も大きな問題になっていきました。
宅配バブルが再びやってきた
私の感覚では、
ここで「宅配バブル」が始まりました。
昔の宅配バブルとは意味が違います。
昔は、
「宅配便そのものが成長していく時代」
だった。
しかし、この頃は、
「ネット通販によって宅配便の物量が爆発的に増えた時代」
です。
Amazon。
楽天。
ZOZO。
ASKUL。
その他のネット通販。
スマートフォンの普及もあり、
「店に行って買う」
から、
「スマホで注文して家で受け取る」
という生活が当たり前になっていきました。
その結果、宅配便の取扱個数は大きく増加。
EC拡大とともに、再配達や人手不足も社会問題になっていきました。国土交通省によると、2023年度の宅配便取扱個数は約50億個に達しています。
そしてAmazonの自社配送が広がっていった
宅配会社だけでは、この物量をすべて処理することが難しくなっていきました。
そこで存在感を増していったのが、
Amazon自身による配送網です。
Amazonの配送を宅配会社だけに依存するのではなく、自社の物流・配送ネットワークを強化していく。
こうして、宅配業界はさらに変化していきました。
かつては、
「Amazonの商品を宅配会社が届ける」
という構図だったものが、
「Amazon自身も配送網を持つ」
という形へ変わっていったわけです。
そして、あの「荷物を蹴る動画」が拡散した
そんな時代に、宅配業界を象徴する出来事がありました。
某大手宅配便のドライバーが荷物を蹴る動画がSNSで拡散された事件です。
普通なら、
「荷物を蹴るなんて、とんでもない」
という話になります。
もちろん、荷物を乱暴に扱うことは許されません。
しかし、私を含め当時の宅配ドライバーの多くが感じたのは、別のことでした。
「そこまでドライバーを追い詰めていたのは何なのか?」
という疑問です。
動画そのものだけではなく、
- 配達しても留守
- 時間指定でも留守
- 再配達
- 再配達でも留守
- それでも再配達は無料
- 時間指定による拘束
- 増え続ける荷物
- 人手不足
といった、宅配現場の問題に注目が集まりました。
私自身、当時のドライバーには同情していました。
もちろん、荷物を蹴る行為そのものを肯定するわけではありません。
ただ、
「あの人だけがおかしかった」という話で終わらせてはいけないのではないか
と思いました。
SNSによって、宅配ドライバーの「本音」が表に出るようになった
それまで宅配ドライバーの仕事は、外からは見えにくい仕事でした。
お客さんから見えるのは、
「荷物を持ってきてくれる人」
だけです。
その裏側で、
- 何十個、何百個もの荷物を積む
- 時間指定を守る
- 不在なら再配達
- 道路事情に対応する
- 荷物を破損させない
- 誤配しない
- クレームにも対応する
- 夜まで走る
という仕事をしています。
しかしSNSが普及すると、ドライバー自身が現場の実態を発信するようになりました。
これによって、
「宅配ドライバーって、実際にはこんなに大変なの?」
ということが一般の人にも見えるようになっていきました。
宅配便の問題は、単なる「ドライバーの根性」の問題ではなく、
物流システム全体の問題
として考えられるようになっていったのだと思います。
「2024年問題」へ
こうした流れの先に出てきたのが、
2024年問題
です。
トラックドライバーの長時間労働を是正するため、2024年4月から改正された改善基準告示が適用されました。
現在のトラックドライバーには、拘束時間や休息期間などについて、以前より厳しい基準が設けられています。
例えば、原則として1か月の拘束時間は284時間以内、1日の拘束時間は13時間以内を基本とし、休息期間は継続11時間以上を与えるよう努め、9時間を下回らないことなどが定められています。
昔の宅配現場を知っている私からすると、
「時代が変わったな」
と思います。
昔と比べると、宅配ドライバーの環境は良くなった
もちろん、現在の宅配ドライバーが楽な仕事だと言うつもりはありません。
荷物は多い。
再配達もある。
時間指定もある。
人手不足もあります。
それでも、
昔と比べれば、かなり改善された部分がある。
私はそう感じています。
昔は、
「お客様のためなら何でもやる」
ということがサービス精神として評価されていた。
しかし今は、
「そのサービスを持続できるのか?」
ということが問われるようになりました。
再配達削減、宅配ボックス、置き配、受取場所の多様化など、受け取り方そのものを変えていく取り組みも進んでいます。
国土交通省によると、2025年4月の宅配便再配達率は約8.4%まで低下しています。2022年10月の約10.6%からも減少しています。
昔の約15%という水準と比べても、大きな変化です。
私が宅配便の歴史を振り返って思うこと
私が小学生だった頃。
宅配便のおじさんが家に荷物を届けてくれました。
その頃は、
「便利だな」
くらいにしか思っていませんでした。
大学生になってヤマトのベースで仕分けをしました。
Amazonを発見して、
「欲しいものが何でもある!」
と感動しました。
その後、ペリカン便に就職。
AmazonやASKUL、ZOZOなどの荷物を配りました。
しかし当時は荷物が少なく、
「こんなに仕事がないのに、なんで夜まで帰れないんだ」
と思っていました。
そしてペリカン便とゆうパックの統合。
その後、ネット通販が急成長。
宅配業界は一気に物量過多へ。
今度は、
「荷物が多すぎて終わらない」
という時代になりました。
「荷物がない時代」から「荷物が多すぎる時代」へ
振り返ると、私が宅配業界で経験した時代は、本当に極端でした。
最初は、
荷物がない。
そして、
荷物が多すぎる。
その間に、
サービスはどんどん増える。
そして最後には、
サービスを減らしてでも、持続可能な仕事に戻そうとする。
そんな歴史でした。
宅配便は、便利になればなるほど良い。
私は昔はそう思っていました。
しかし、現場を経験した今は少し違います。
便利さにも限界がある。
ドライバーが生活できなければ、そのサービスは続きません。
荷物を受け取る人、荷物を送る会社、宅配会社、そして実際に荷物を運ぶドライバー。
このすべてが無理なく成り立つ仕組みでなければ、宅配便という社会インフラは続かないと思います。
まとめ|宅配便は「便利さ」から「持続可能性」へ
1976年に始まった宅急便。
1980年代の「動物戦争」。
1990年代のサービス拡大。
2000年代のAmazon・ネット通販の登場。
そして2010年代のEC急拡大。
宅配便は、
「もっと便利に」
という方向へ進み続けました。
しかし、その便利さを支えていたのは、現場で走り続けるドライバーでした。
そして、サービスが限界に達したことで、
「このままでは続かない」
ということが社会全体に見えるようになりました。
再配達削減、宅配ボックス、置き配、時間帯指定の見直し、運賃改定、労働時間規制など。
宅配便は今、
「便利さを最大化する時代」から「持続可能な物流を作る時代」
へ変わりつつあるのだと思います。
私自身、2007年頃から宅配の現場に入り、荷物がない時代も、荷物が多すぎる時代も経験してきました。
だからこそ、今の宅配業界を見ると、
「昔よりは、ずいぶん変わったな」
と感じます。
そして、これから宅配便がどう変わっていくのか。
それは、現在も宅配ドライバーを続けている私自身が、これからも現場で見ていくことになります。
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